ユンボにまたがって

聴いた音楽の感想等々

SWARRRM 「こわれはじめる」

2018年発表の5thアルバム。

 

神戸出身のグラインドコア、激情ハードコアバンドの4年ぶりのアルバムである。様々なアンダーグラウンドシーンのバンドとスプリットを出してきた彼らの最新作は、強烈な怒涛のブラストビートや生々しい音で録音されたギターの上に絶妙なバランスで乗っかる耳に残るメロディーのボーカルが楽曲の完成度を高めている。耳に残るメロディーだからといって楽曲の攻撃性は無くなったわけではなく、唸るようなボーカルであるため圧倒的な攻撃力がある。また音楽性は暴力的であるにも関わらず、「ここは悩む場所じゃない」や「愛のうた」、「明日に向かって歌え」などメッセージ性が強い歌詞が多く、否定的な歌ではなく前向きな歌を力強く歌っている弱者に寄り添うような攻撃的で儚げなボーカルである。一方では「影」のようにカオティックな破壊力を持った曲もある。汚さの中に美しさがあり、狂気の中に正気があり、絶望の中に希望があり、騒音の中に静寂があるかのような矛盾するような表現しか出来ず、言葉に表すのが難しい。グラインドコアや激情ハードコアに含むことが難しい素晴らしい1枚だ。わずか42分であるが強烈なメッセージを携えながら暴走して駆け抜けていく。

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8.8/10.0

killie 「犯罪者が犯した罪の再審始まる」

2018年発表、日本のアンダーグラウンドシーンで活動する激情ハードコアバンドの編集盤。

 

活動10年を迎えた彼らの、今まで小口発表してきて廃盤となった楽曲を再レコーディングし、未発表曲も含めたディスコグラフィーを兼ねたようなアルバムとなっている。激情ハードコアのように激しいボーカルであるが楽器陣はマスコア、カオティックハードコアのような複雑なフレーズを爆音で激しく歪ませながら塗り潰すように弾きまくっている。一切の妥協無く、徹底的にソリッドな音が最初から最後まで緊張感を生み、張り詰めた空気感のなか轟音をかき鳴らしながら駆け抜けていく。「犯罪者が犯した罪の再審始まる」という題のアルバムであり、表題曲は様々な犯罪者のニュースをサンプリングした曲でさらに最後の「六月」では世界大戦中の回顧録繋ぎ合わせたパートがある。聴く者に犯罪者とは罪とはということを考えさせる。裁かれた犯罪者と裁かれていない犯罪者の罪の再審は聴き手に任されているとも解釈できる。彼らの代表曲を中心を集めた編集盤といえどもコンセプトアルバムのような作品である。1,111円と格安で、アートワークもなく、しかも一筋縄ではいかないギミックがあるCDとなっている。激情ハードコア好きは手に入れておきたいアルバムだ。

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9.0/10.0.

Melvins 「Pinkus Abortion Technician」

Alternative・Sludgeの大御所であるMelvinsの1年ぶりとなるアルバム。

 

彼ら特有の悪ふざけと癖の強さを随所にちりばめている。何よりもベースがButthole Surfersのジェフ・ピンカスとRedd Krossのスティーブン・マクドナルドというツインベース体制によるアルバムとなっている。今作はオリジナル曲が5曲とカバーが3曲収録されている。アルバムのオープニングを飾るのはButthole Surfersの「Moving to Florida」とJames Gangの「Stop」のメドレー曲、「Stop Moving to Florida」で強烈に幕を開ける。また、8分近くある「Don't Forget To Breathe」は遅めのテンポで怪しげに反復していく、気味の悪いコーラスが癖になる曲である。また、The Beatlesの代表曲である「I Want to Hold Your Hand」をMelvins流の癖の強いアレンジを加えた轟音が効いている楽曲となっている。アルバムのエンディングはButthole Surfersの「Grave Yard」で幕を閉じる。全体的に変態気味の楽曲が並んでおり、わずか38分なのにカロリーがとても高いアルバム。

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7.5/10.0

Earthless 「Black Heaven」

カリフォルニアのサンディエゴのスリーピースバンドである彼らの5年ぶりとなる4枚目のフルアルバム。

 

インストバンドとしてよく知られている彼らであるが今作では収録されている6曲のうち4曲でギタリストであるIsaiah Mitchell がボーカルを担当している。強烈なギターサウンドと反復するリフがサイケデリックな世界へと聴き手を誘う。あくまでもインストバンドであっただけあって歌よりも楽器陣の演奏が楽曲の主役であって、ギターソロなどのインストパートのほうが歌よりも研ぎ澄まされているような風格さえある。特に「Electric Flame」の後半のジャムパートと表題曲の「Black Heaven」は3人が鎬を削っているかの如く激しい応酬がある。さらに「Sudden End」では哀愁漂うイントロからの寂しげな歌のメロディーが荒野の中にいるかのような気分になる。ただ爆音でけたたましい音でサイケデリックさを生むだけでなく、泣きのギターで聴き手をトリップさせるのは彼らの真骨頂であろう。8分を超える長尺な曲が3曲と、大胆にボーカルを入れてくるアルバムで、彼らの新境地へと進みつつも激しいサイケデリックでブルージーさがこれでもかと詰まっている。

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8.4/10.0

Sleep 「The Sciences」

2018年の初っ端に初来日を果たし、地下に潜るドゥーム・ストーナーファンを狂喜乱舞させた大御所Sleepが最後の作品となっていたDopesmoker以来となる15年ぶり(完全な新作としては19年ぶり)となる復活作。アルバムの公開日は世界マリファナデーでもある4月20日と凝っている。Sleep's Holy MountainやDopesmokerを土台にしつつもさらに強靭で低音の効いた轟音の低速リフが延々と繰り返され、今まで以上に遥か彼方を目指しているといったような仕上がりである。聖なる山やエルサレムを目指していた彼らはジャケットにあるかの如く宇宙へと飛び出していったアルバムである。

アルバムのオープニングを飾るのは「The Sciences」というおよそ3分の短い(?)ギターのインストで幕を開ける。そこから唐突に唸りを上げる楽器陣が鼓膜を揺さぶってくる「Marijuanaut's Theme」はDopesmokerのような音の壁によるリフとOMを彷彿とさせるような呪術的なぶつくさと唱えるボーカルが癖になる。そこから畳みかけるようにDopesmokerの完全版に収録されている12分超の大作である「Sonic Titan」へと続いてゆく。さらにそこから単音リフで幕を開ける14分超の「Antarcticans Thawed」へと続てゆく。ひたすら地を這うかの如く続くシンプルで単調なリフが聴き手を宇宙へと連れていく。そして彼らの音楽性の原点といえるBlack Sabbathのベーシストであるギーザー・バトラーの名前を冠した「Giza Butler」はその名に恥じない印象的なベースリフで幕を開け、洪水のようなギターリフが襲ってくる。特に最後の部分の盛り上がり方と激しさは白眉である。そしてアルバムぼ終曲である「The Botanist」は侘しさが漂う、まるで漆黒の宇宙空間に一人でいるかのような寂しさと静けさが轟音の中にあるエンディングに相応しいインストナンバーである。ただ終わり方が若干不完全燃焼気味である。

わずか6曲であるが53分という長いのか短いのかよくわからないアルバムであるが確実にエルサレムよりはるか彼方へ連れていかれ、尚且つ聴きやすいアルバム。

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8.5/10.0

Teenage Wrist 「Chrome Neon Jesus」

2018年発表のLA出身のスリーピースバンドによるデビューアルバム。

 

90年代の様々なオルタナグランジ界隈やハードコア系統からの影響が感じられる。シューゲイザーのように轟音かつファジーなギターサウンドとダイナミックなドラム、そしてグランジのように気怠げなオルタナ調のメロディがジャケットにあるかのようなメランコリーな雰囲気を醸し出している。アルバムのオープニングを飾る表題曲の「Chrome Neon Jesus」では静かなイントロから強烈なファジーなギターサウンドが展開していき、途中日本語のポエトリーディングが曲の気怠げなメランコリーな雰囲気を更に加速させる。また「Swallow」ではディストーションの金属的な激しい熱いギターソロが魅力的である。ただ轟音というだけでなく「Supermachine」では静かなアコースティックギターもある。それにより激しいドラムと轟音が更に際立っている。シューゲイザーのような轟音だけでなくDinosaur Jr.のような図太いベースと感情的なギターソロ、スマパンDeftonesのようなファジーな音が心地よい。最近のオルタナバンドの中でも注目していきたいバンドの一つだと思う。

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8.4/9.0

THE BACK HORN 「情景泥棒」

2018年発表のインディーズ期以来となるミニアルバム。

 

不気味なジャケットとは打って変わってオープニングを飾る「Running Away」はマリンバの音がうまくハマっており、ベースを軸としながら疾走感のあるメロディが駆け抜けていく。「儚き獣たち」ではイントロのベースのタッピングによる高速フレーズやその後もうねるように暴れたり要所要所で静と動を使いわけ聴き手を興奮させるようなフレーズが多い。「閃光」では切なさが溢れるような歌詞がいかにも青春パンクっぽさがある。このミニアルバムの中でジャケットのような不穏で不気味な「がんじがらめ」はファンキーで軽やかなギターに呪術のようなボーカルとコーラスや「糞がぁ」などネガテイブな歌詞が今作でのTHE BACK HORNの真骨頂という印象であった。「情景泥棒」から「情景泥棒 〜時空のオデッセイ〜」は一つの流れではあるがほぼ別の独立した楽曲である。前者はいかにもという感じのダサさが全体的にある。後者のは「がんじがらめ」に通じるような不穏さがあり後半のギターの爆音タイムが傑作である。シメは「光の螺旋」で、スピード感のある楽曲で途中のテンポダウンしたように感じるパートなどスピードをさらに感じさせる。全体的に今までの作風を打破するかのようなところがあるが根本的なところは何も変わっていない安心感がある。ライブを意識して制作したというだけあってライブでやってこそ映える曲がほとんどのようである。

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8.2/10.0