ユンボにまたがって

聴いた音楽の感想等々

THE BACK HORN 「BEST THE BACK HORN Ⅱ」

2017年発表のベスト盤の2作目。

 

前回にベスト盤からの続きとなるシングル曲のDisc 1とファン投票によって選ばれた楽曲によるDisc 2の2枚組。Disc 1には新曲の「グローリア」、Disc 2には新録の「泣いている人」と「無限の荒野」が収録されている。新曲の「グローリア」はバグパイプが入っており、アイリッシュパンク・ケルティックパンクといった趣のある楽曲となっている。歌詞は初期のようなおどろおどろしい鬱屈したものではなく、影はあるけれども泥まみれになりながら前を向いている歌詞である。コーラスの歌詞も力強く生きる意志を感じるような歌詞である。また曲の中盤では曲をリードするメロディアスなベースラインが耳に残る。新録の「泣いている人」はストリングスを加えており、オリジナルのものよりも奥行きが生まれている。ボーカルもオリジナルの叫びながら歌う歌い方ではなく、円熟味がある優しい歌い方になっている。「無限の荒野」はライブでよく演奏するということもあってかライブ感のあるものとなっている。特にイントロや要所要所ででみせるベースのスラップや狂気じみたギターソロ、そして「青く光る」というコーラスにライブ感が強くみられる。Disc 2はファン投票で選ばれた楽曲が中心ということもあってライブの定番曲からライブでほぼやらない「枝」などといったアルバム曲も選ばれており、なかなかおもしろい2枚組である。

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6.8/10.0

METZ 「Strange Peace」

Sub Pop所属のカナダ出身の3人組による2017年発表の3枚目のアルバム。

 

今作ではエンジニアにスティーヴ・アルビニを迎えている。オープナーの「Mess of Wires」から相変わらず荒々しい音で、さらに磨きがかかって音に鋭さがあるように思える。攻撃的なドラムとブリブリと唸るベース、そして歪まないアンプを限界まで歪ませたような音のギターが一丸となって押し寄せる。しかし3人が生み出すこの轟音は決して耳障りな音にはなっておらず、またメロディも良い。特に「Cellophane」は印象的なリフにポップなメロディが乗っておりポップパンクのような趣きがあり、よりハードコア的に尖ったDinosaur Jr.といった感じがある。ただただノイジーな爆音で爆走するだけでなく、「Sink」のようにテンポも遅めで歪みも要所要所のみといった穏やかではあるが不穏なメロディとリフの曲もあり、アルバムのアクセントとなっている。またハードコアからの影響が伺える「Escalater Teeth」や「Dig a Hole」といった数十秒で駆け抜ける曲もある。相変わらずノイジーな生々しい爆音で駆け抜けていくのは如何にもSub Popとスティーヴ・アルビニいった感じがある。

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7.8/10.0

人間椅子 「異次元からの咆哮」

日本を代表すると言っても過言でないほどのベテランスリーピースバンド2017年発表の記念すべき20枚目のアルバム。

 

今作もHR/HM感が満載といった内容で、ワジーの三味線のようなギターリフも炸裂している。ドゥームやスラッジ色のリフとわらべ歌のようなメロディの「月夜の鬼踊り」や、Deep Purpleを思い起こす70年代のハードロックのようなリフの「悪夢の添乗員」といった曲、ノリの良いリズムで様々な楽器が入ってる「もののけフィーバー」といった曲、そしてBlack Sabbathのようなリフと曲名の「悪魔祈祷書」というヘヴィな曲まで揃っている。最も面白い曲はイントロや間奏でバイクのエンジン音をギターで再現した「地獄のベビーライダー」である。曲中に見られる掛け声やサビの「ブッ飛ばせぃッブッ飛ばせぃッ」がライブで映えることは間違いないと思う。人間椅子が追い求めてきたHR/HMの要素やHR/HMの歴史を辿ることもできる。この20枚目のアルバムである今作だがガツンとくる一発のある曲があるアルバムというよりは今までの集大成ともいうべき良曲が揃っていなごら遊び心も満載なアルバムである。

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8.0/10.0

Age Factory 「River - EP」

奈良県を中心として活動する3人組の2017年発表のEP。

 

耳に突き刺さるようなフィードバックと疾走感のあるタイトなドラムのビートから始まる「Overdrive」で始まる。女性の歌声のように高く柔らかい声のファルセットのコーラスとしゃがれた男らしいボーカルがうまく混ざり合ったサビが耳に残る。儚さを感じられる歌詞と哀愁漂うメロディの「River」は日本のメロディックハードコアシーンに突き刺さる一曲だと思う。クローザーの「Sunday」は空間的広がりを感じられるサウンドで、メロディと歌詞に切なさがある。全体を通して刺々しい歪みのギターが印象的で銀杏BOYZのような青春パンクから影響を受けたようなギターサウンドである。ただポップで明るいメロディというハイスタのように背中を押すメロディックハードコアではなく、メロディに哀愁が漂う背中を押すメロディックハードコアというよりはそばに寄り添うようなメロディックハードコアである。

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7.3/10.0

Primitive Man 「Caustic」

2012年に結成したコロラド州デンバーのスリーピースのデススラッジバンドによる2017年発表の2作目のフルアルバム。

 

日本語訳すると「苛性」という題名のアルバムだがそもそも苛性とはという感じである。因みに苛性とは動植物の組織などに対して強い腐食性があることという意味らしい。その名に恥じぬほど聴く者をスラッジの沼へと誘うアルバムである。ジャケットに見られる鉄球のように重々しいアルバムとなっている。全般錆びついたようなグロウルで歌われ、ギターの荒々しく生々しい歪みやノイズが炸裂している。ドラムは一打一打が重たく、まるで重戦車や重機が全てを薙ぎ倒し破壊しながら進んでいるかのようである。初っ端から脳天を撃ち抜くヘヴィさで一切の休憩など無く77分間絶え間なく攻め続ける。時折ハードコア的な疾走を見せるものの基本的には地下世界のようなダークでおどろおどろしい曲がひたすら続く。「Victim」では序盤疾走感をみせるが途中テンポチェンジして黒い渦を巻くかのようなスラッジ・ドゥーム節が炸裂する。「Commerce」や「Disfigured」など10分を超す大作も十分すぎるほどの魅力である。特に終盤の3曲は圧倒的な重厚感がある。まず「Disfigured」と「Inevitable」は両方とも10分を軽く超え、聴き手を泥沼へと引き摺り込むドロドロとしたスラッジ的な楽曲である。そしてクローザーの「Absolute」は9分近くに渡る単一リフ的なノイズでカタルシスを生む。棍棒のような原始的な鈍器で脳髄をブン殴ってくるという重さ・遅さ・汚さが揃っている。このスリーピースバンドとは思えない圧倒的な圧力と重厚感は比類するものがない。爆音で77分間通して聴けば別世界に行けるだろう。

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8.3/10.0

Secure 「Awake」

2017年発表のロシアはモスクワの叙情系バンド。

 

スラッジのように重く、郷愁感のある民族音楽のような幕開けが印象的なオープナーの「The Song」で幕を開ける今作。力強いブリッジミュートでの刻みと泣きのチョーキングを見せるギターやメタルのようなグロウルをみせるボーカルが魅力的である。特に「Dead Point」でのボーカルの後ろで鳴ってるギターはとても郷愁的である。また「Lost Fools」でみせる泣きのギターはこのアルバムの白眉であり、心を揺さぶる。メタルコア的なブレイクダウンをみせる部分もあり様々なジャンルからの影響を感じられる。ボーカルはハードコア的なシャウトというよりメタルよりな歪んだグロウルが中心となっており、クリーンボイスでのメロディが涙腺を直撃する。10曲で32分とコンパクトにまとまっているが密度があるため十分な長さである。エモよりも激しく叙情というにはあまりにも過激に聴き手を揺さぶる。

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7.8/10.0

羊文学 「トンネルを抜けたら」

スリーピースバンドによる2017年発表のデビューEP。

 

メロウな歌声で優しく包み込むようなボーカルがメランコリックなメロディを歌う。オープナーの「雨」はイントロの程よく歪んだクランチのギターの残響音が耳に残る寂しげな楽曲である。「春」では四拍子からワルツになったり8分の6拍子になったり展開が多く、マスのような感じもある。また「Blue.2」はシューゲーザーのような歪みまくりのギターとメロウなメロディが楽曲の持つ悲しさを出している。クローザーの「Step」は自己否定的な歌詞で最後に一筋の光があるような歌詞で、基本的にはクリーントーンが基調となっているが、ファジーな間奏が一気に感情を昂らせる。収録されている楽曲全てが空間系のかかった浮遊感のあるギターと存在感はあるが邪魔になっていない動くベースによって寂しげだったりメランコリックな雰囲気を醸し出されており、ねごとのような雰囲気を更に沈めていったような感じがある。歌詞は沈痛な悲壮感のある内省的で曇り空のようである。フルアルバムではどうなるか注目のバンド。

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6.8/10.0