ユンボにまたがって

聴いた音楽の感想等々

Gary Numan 「Savage (Songs from a Broken World)」

シンセポップのパイオニアであるGary Numanの約4年ぶり22作目のアルバム。

 

NINやマリリンマンソンなどのインダストリアル勢に影響を与えたGary Numanの新作は、アルバムのジャケットでも表現しているように荒廃した世界、温暖化によって荒廃し砂漠化した不毛な大地が地球に大半を占めている近未来を舞台としたアルバムである。サウンドは凶悪で攻撃的であり、歌詞は内省的で陰鬱な印象が漂う。それでいてポップで優しい歌のメロディがマッチしている。ジャケットの砂漠とアラビアのような文字だけでなく、「Bed of Throne」ではコーラスや楽器で中東やアフリカっぽさ、砂漠のイメージをうまく出している。またNINに影響を与えただけあり「My Name Is Ruin」や「Mercy」といった楽曲に退廃的で自己否定的、内省的な歌詞に攻撃的なサウンドが際立ったている。荒廃した大地がコンセプトであるため、内省的な歌詞であってもただ内省的なだけでない広がりがある歌詞である。クローザーの「Broken」は荒廃した世界を嘆いている悲しげな歌で幕を閉じる。希望を最後の曲に残さないことで現代社会に警告の鐘を打ち鳴らすアルバムである。

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8.7/10.0

Weezer 「Pacific Daydreams」

前作から1年ぶりの11枚目のアルバム。

 

前作では初期のアルバムのような荒々しくもあるがポップな要素を散りばめたアルバムであった。大方Weezerといえば初期のブルーアルバムやグリーンアルバムのような荒々しく豪華なイメージは一切ない音楽をイメージすると思われる。その点今作はメロディはそういったポップさがあり前作を踏襲している。一方サウンド面では全体的に洗練されており、荒々しさはない。今作はEd Sheeranのような豊かで煌びやかなサウンドが主体となっているようなアルバムとなっている。全体的にギターの歪みにトゲトゲしさがなく、過剰なコーラスやエフェクト目立っている気がする。その所為でWeezerのイメージの泣き虫ギターポップなアルバムではなく、オシャレなポップアルバムになっている。特に「Happy Hour」ではベースもただパンクのようにひたすら弾くベースではなくなりリズムからオシャレなベースになっている。どちらかといえばただのポップアルバムなのだが、「Weekend Woman」はうまくバランスが取れていると思う。どこかPet Soundsっぽい感じもある今作は、今現在の流行に対するWeezerなりのアルバムのかもしれない。

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7.1/10.0

Kartikeya 「Samundra」

南インドの古典音楽カルナータカをベースにしたプログレッシブメタルのKARTIKEYAによる5部作の1作目。

 

Djentのようなザクザクとした低音の刻みや激しく歪んだギターの洋風なサウンドに合わせて何の楽器の音かさっぱりわからないがエスニックな音色の美しいサウンドが唯一無二の世界を作っている。また宇宙のように広大で荘厳な世界観とともに呪詛的な怪しく禍々しい民俗的世界観もある。色々インドに対するイメージはあると思うが、我々がなんとなく想像するインドのイメージがそのまま伝わるメタルの楽曲となっている。オープナーの「Dharma, Pt. 1」はイントロからDjentのようなサウンドであり、途中インド的なメロディと民族楽器の笛のような音色で頭にインドの密林のイメージが広がる。「Durga Puja」では耳慣れない楽器の音と途中にあるお経のようなものがエスニックな雰囲気を出している。「Mask of the Blind」はいかにもインドといった幕開けから激しいメタルサウンドへ突入しつつも独特な楽器の音で程よくインド感を織り交ぜている。プログレといっても変拍子を多用するというよりはアルバムを通して一つの大きな楽曲、壮大な世界観を表現しているといった感じがあるプログレメタルという感じがする。とくに「Kannada」という楽曲名はカンナダ語という南インドの州の公用語のことで歌もおそらくインド人がインド的メロディで歌いバックはひたすらメタルというおもしろさがある。インド×メタルというバンドで今作は「水」がテーマであるが残りの4部作は木、火、土、金とかだったりして。

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7.9/10.0

The Dillinger Escape Plan 「Dissociation」

Convergeとともにハードコアシーンの雄である1997年結成のTDEPの6作目。今作を最後に解散が決定している。

 

おどろおどろしいメロディとギターリフに塗れている。初っ端から「Limerent Death」で人力の限界に挑むかのような騒々しさと展開の複雑さの運動会が開催されている。「Wanting Not So Much To As To」では複雑で理解がなかなか追いつかない頭のネジがぶっ飛んだようなカオティックさが十二分に発揮されている。一方で「Fugue」ではNINを彷彿とさせるような電子音楽のような楽曲である。さらに輪をかけるかの如く「Nothing To Forget」ではストリングスを使うことで悲壮感を出している。激情、叙情が組み合わさり、変態的な妖しさをも包括した一つの大きな塊となっている。どこへ向かうのか、どう展開して行くのか先の読めない変態性が存分に発揮されている。クローザーの「Dissociation」はストリングスによる壮大さと電子音による悲哀、不穏さそしてメロディの美しさと終焉の余韻が相まってカオスの闇鍋となっている。兎にも角にもカオスさによって脳ミソが揺さぶられることは間違いない。

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7.8/10.0

8otto 「Dawn On」

日本の4人組、ドラムがメインボーカルを務める8ottoの6年ぶり2017年発表の5枚目のフルアルバム。

 

アジカン後藤正文が全面プロデュースの今作。UK、US、Jロックの要素やインディ、オルタナ、ファンクなど様々な国の音楽やジャンルの影響を伺えるアルバムである。しかしとっ散らかった感じはなく、いろいろなジャンルの要素がうまく融合していている。オープナーの「Ganges-Fox」は何層にも別れて盛り上げてくる構成で一気に聴き手を釘付けにする。また「SRKEEN」はレッチリのようなカッティング、ATDIのようなリフ、アクモンのようなUKロックのリフと盛りだくさんな内容である。サビではダンスミュージックのようなノリの良いものへと変化する。たくさんの要素が詰まっているのにしっかりまとまっている。「It's All Right」は金管の音が入った裏ノリのファンキーな曲であるがアルバム内で浮くような雰囲気ではない。「Rolling」ではまるでアジカンのようなメロディのサビが魅力的である。「Mr. David」ではピッチシフターを使ったリフとメロウなメロディが絶妙にマッチしている。楽曲の構成は邦楽、洋楽にとらわれない。幅広いバックグラウンドを見せつつまとまりのあるアルバムとなっている。

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8.9/10.0

THE BACK HORN 「BEST THE BACK HORN Ⅱ」

2017年発表のベスト盤の2作目。

 

前回にベスト盤からの続きとなるシングル曲のDisc 1とファン投票によって選ばれた楽曲によるDisc 2の2枚組。Disc 1には新曲の「グローリア」、Disc 2には新録の「泣いている人」と「無限の荒野」が収録されている。新曲の「グローリア」はバグパイプが入っており、アイリッシュパンク・ケルティックパンクといった趣のある楽曲となっている。歌詞は初期のようなおどろおどろしい鬱屈したものではなく、影はあるけれども泥まみれになりながら前を向いている歌詞である。コーラスの歌詞も力強く生きる意志を感じるような歌詞である。また曲の中盤では曲をリードするメロディアスなベースラインが耳に残る。新録の「泣いている人」はストリングスを加えており、オリジナルのものよりも奥行きが生まれている。ボーカルもオリジナルの叫びながら歌う歌い方ではなく、円熟味がある優しい歌い方になっている。「無限の荒野」はライブでよく演奏するということもあってかライブ感のあるものとなっている。特にイントロや要所要所ででみせるベースのスラップや狂気じみたギターソロ、そして「青く光る」というコーラスにライブ感が強くみられる。Disc 2はファン投票で選ばれた楽曲が中心ということもあってライブの定番曲からライブでほぼやらない「枝」などといったアルバム曲も選ばれており、なかなかおもしろい2枚組である。

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6.8/10.0

METZ 「Strange Peace」

Sub Pop所属のカナダ出身の3人組による2017年発表の3枚目のアルバム。

 

今作ではエンジニアにスティーヴ・アルビニを迎えている。オープナーの「Mess of Wires」から相変わらず荒々しい音で、さらに磨きがかかって音に鋭さがあるように思える。攻撃的なドラムとブリブリと唸るベース、そして歪まないアンプを限界まで歪ませたような音のギターが一丸となって押し寄せる。しかし3人が生み出すこの轟音は決して耳障りな音にはなっておらず、またメロディも良い。特に「Cellophane」は印象的なリフにポップなメロディが乗っておりポップパンクのような趣きがあり、よりハードコア的に尖ったDinosaur Jr.といった感じがある。ただただノイジーな爆音で爆走するだけでなく、「Sink」のようにテンポも遅めで歪みも要所要所のみといった穏やかではあるが不穏なメロディとリフの曲もあり、アルバムのアクセントとなっている。またハードコアからの影響が伺える「Escalater Teeth」や「Dig a Hole」といった数十秒で駆け抜ける曲もある。相変わらずノイジーな生々しい爆音で駆け抜けていくのは如何にもSub Popとスティーヴ・アルビニいった感じがある。

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7.8/10.0