ユンボにまたがって

聴いた音楽の感想等々

チャットモンチー 「誕生」

現在の日本を代表するガールズバンドといっても過言ではないほど有名なチャットモンチーの最後のアルバム。

 

二人体制になってエレクトロニカに重きを置いたアルバムとなっている。『たったさっきから3000年までの話』では未来への期待、不安などを歌っている。途中の疾走感はまるで未来へタイムスリップしているかのようなサウンドである。またDJみそしるとMCごはんとの共演である『クッキング・ララ』というようなHip-Hopの要素を加えるなど新しい試みもみられる。『やさしさ』を思い起こさせる「ダメダメ」「雨」という歌詞が入っている高橋久美子作詞の『砂鉄』はそれまでのチャットモンチーの歴史を感じさせる。名曲である『恋の煙』をベボベ小出祐介と歌った同期Verでは褪せることのない、どのようにアレンジしても変わらない新しくもあり、変わらずもあることを示している。『たったさっきから3000年までの話』では未来を歌っているが、アルバム全体では高橋久美子の歌詞提供や橋本絵莉子の息子がコーラス参加などチャットモンチーの過去、現在、未来を総括しているアルバムでもあるのかもしれない。たくさんの思い出をありがとう、さようならチャットモンチー

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7.2/10.0

SWARRRM/killie 「耐え忍び霞を喰らう」

2017年発表のスプリット。2018年にセカンドプレスされた。

 

SWARRRMではアルバム『こわれはじめる』にも収録されている『愛のうた』と『あなたにだかれ こわれはじめる』が収録されている。騒々しいグラインドコアの演奏の中で歌謡曲のようなメロディーを唸りながら歌う。

一方killieの方は、『お前は労力』と老人の仕事とも関わりのありそうな名前の11分超の長尺曲となっている。途中SleepのようなDoomで煙たいなリフを挟むなど老人の仕事でみせたSleep愛がここにもあるようである。歌詞は激しく労働体制を批判するかのような鋭いものであり、ハマる人と絶対に受け付けられない人とがはっきりと分かれるような過激な歌詞である。特に途中の「通勤電車に闘志は燃えているのか」や最後の語りの部分の「生きるために犠牲は必要だそもそも人口が多いんじゃないか?お前が弾き飛ばして殺した貧乏人」など強烈な歌詞がそろっている。ただ「福島に咲き誇る桜」など微かに未来に期待するかのような歌詞がちりばめられ、ただ絶望だけを歌ったわけではないような不思議な魅力があふれた歌である。

わずか3曲のみの収録で3,000円のLPであるが、これを安いと思うか高いと思うかは聞いてからではないと判断できない代物である。

8.7/10.0

老人の仕事 「老人の仕事」

killie、johann、CxPxSのメンバーで結成された3ピースインストゥルメンタル・ドゥーム/スラッジコアバンである老人の仕事によるデビューアルバム。

 

重厚なベースとドラムに加えて煙たいギターリフがDoomな世界へと聴き手を連れていく。ボーカルはなく、ただ唸り声が響くだけでより独自の世界観を築き上げている。アルバムに収録されているのはわずか3曲で32分と1曲あたり10分近くであるがむしろ物足りなさがあるくらいそれぞれが強烈で良曲である。アルバムのオープニングを飾る「霊峰を望む」はSleepのDopesmokerを彷彿とさせるリフと楽曲の構成となっている。次の「庵にて嗅ぐ」は途中笛の音とDragonautのようなリフと合わさってまるでマンガ日本昔話のオープニングの龍に乗っている様子が思い起こされるような気がする。また吠えているような声は修験道の山伏の声のようで、より全体的に和の要素強めている。そして最後の曲「翔んで見せろ」は軽快なイントロから一気にヘビーなリフへと変わり、全く翔べる気がしない重たい楽曲である。Sleep's Holy Mountainの聖なる山が今作では富士山で、Dragonautのイェルサレムが今作では伊勢神宮になっているかのようなSleepを噛み砕いて消化して日本的にしたSleep愛が詰まっているアルバムである。

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8.7/10.0

Fu Manchu 「Clone of the Universe」

ストーナー・デザートロックの雄であるFu Manchuによる4年ぶりとなる2018年発表のアルバム。

 

オープニングを飾る「Intelligent Worship」は乗りやすいテンポでグイグイ進んでいきつつサイケデリックなギターソロが秀逸である。どっしりと重く構えていながらとっつきやすさがある楽曲が並んでいる。また「Don't Panic」はハードコア・パンクのような疾走感をもった2分弱の曲であるが、重さは失われておらず、デザートロック感が強い佳曲である。アルバムのほとんどを占める6曲が3分前後となっており、リフも思わず頭を振ってしまうようなヘビーさとかっこよさを併せ持っている。そして最後の曲である「Il Mostro Atomico」は18分を超える楽曲となっており、アルバム全体がおよそ37分であるのでアルバムの収録時間の大半を占める楽曲となっている。またこの楽曲はRushのAlex Lifesonが参加している曲でもある。ほかの6曲に比べるとストーナー・ドゥーム感、サイケデリックの要素の強い楽曲となっている。目まぐるしく変わる展開に飽きさせることなくあっという間に18分が過ぎてしまう圧巻の楽曲である。

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7.8/10.0

 

 

Dylan Carlson 「Conquistador」

2018年発表のソロデビュー作。

 

EarthのギタリストかつEarthの発起人でもあるドローン・ドゥームマスターのDylan Carlsonによるソロデビュー作。EarthといえばSub Popから出された3曲70分というEarth 2に代表されるような強烈で重苦しい重低音のノイズがひたすら流れ続けるというのを否応なしに想起してしまうものでかなり身構えていたが、普通とは何かとなる人もいるであろうが思った以上に普通のインストアルバムとなっている。アルバムの1曲目の「Conquistador」という楽曲はから13分超とかなり飛ばしてくる。基本はギターのゆったりとしたクランチ気味のアルペジオのフレーズを延々と繰り返す内容となっているが、要所要所でフレーズを変えたりストリングスを入れて盛り上げていったりするなど変化があり長さを感じさせることがない。初っ端から綺麗なフレーズを延々と弾き続けるというストーナー感が満載である。長尺な楽曲は最初だけで、2曲目以降は基本的に5~6分の曲が主体となっている。「When the Horse Were Shron of Their Hooves」はやや歪んだギターリフが繰り返されるストーナーな楽曲である。若干スピード感はあるものの、やはり基本的に遅い。しかしEarthのような重苦しさがある遅さではなく、まるで目が回るかのような遅さである。4曲目の「Scorpions in Their Mouths」ではホワイトノイズが早々吹き荒れ、Earth 2のようなのがくるのかと思いきや、リズムが存在するディストーション気味のギターリフがまた繰り返されていく。5曲で32分である今作はドラムなどリズムを刻む楽器が一切なく、Dylan Carlsonが本当に一人でギターを弾きまくるというストーナーアルバムとなっている。

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7.9/10.0

 

羊文学 「オレンジチョコレートハウスまでの道のり」

女性ボーカルのスリーピースバンドによる2018年発表の2枚目のEP。

 

前作の雰囲気とは異なる雰囲気を纏った今作。前作よりも落ち着き、儚げなボーカルとメロディに磨きがかかっている独自の雰囲気を持っている。「ブレーメン」ではふわりと柔らかく包み込むようなギターとボーカルであるが、終盤ドラムのカウントから一気に加速し、ふわりと包んでいるものをギターで突破しようとするかの如く一気に荒々しく歪む。また「涙の行方」では力強いギターソロとふわっとしたコーラスのバランスが良い。ラストの曲の「マフラー」は暖かく、そして儚いメロディと歌詞の曲である。わずか4曲のEPであるが全て同じような雰囲気を出しつつもそれぞれの曲に個性があるEP。

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7.9/10.0

 

マグダラ呪念 「人外奇譚」

2018年発表の10年ぶりの3rdアルバム。

 

日本のドゥームバンドである彼女らの10年ぶりの新作はサバスのようなヘヴィなサウンドをより重く遅くし、それにノロノロとおどろおどろしい和のメロディがついている。一見人間椅子かのような表現であるが、人間椅子は軽やかさがあり、歌舞伎や浄瑠璃のような日本の伝統文化を下地にした雰囲気がある。一方マグダラ呪念は四谷怪談のような気味の悪い、不気味な庶民に根付く土着文化を下地にした趣がある。特に16分を超す長尺曲の「羅生節」では三味線を弾いており、それに加わるベースとドラムがより曲の不気味さを醸し出している。また、「かたわのこひわずらひ」は人間椅子の不気味な雰囲気を持ちつつも、一層の泥臭さと江戸川乱歩の小説のような気味悪さがある。一方で「憂国」といったようなハードコア的疾走感を伴った楽曲もあり緩急がある。基本的に徹底的に重く、遅く、不気味な雰囲気を纏ったアルバムである。サバスらに始まるドゥーム文化であるが、彼らは悪魔・黒魔術的な文化を背景としている。また人間椅子は仏教、文学作品、伝統芸能の作品といった日本の伝統文化を背景とし、ハードロック等との融合をしている。その一方でマグダラ呪念は妖怪や幽霊、怨霊のような土着文化、民俗文化を背景としているのがはっきりと伝わるアルバムだ。ただただ気味が悪いアルバム。

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7.2/10.0